そおっとドアを開けた時
ママは歌いながら廊下を拭いていた
わたしがただいまと言って
ママがおかえりと言った
胸を撫でおろすように靴を脱いだ
風を入れようと窓を開けた時
ママは歌いながら洗濯物を干してた
十年前ママに教えてあげた歌
わたしが幼稚園で習った歌
ママのレパートリーはわたしの歌
ママが歌っていないとき
ママはジェットコースター
ブレーキは付いてない
遠心力が吹き荒れるけど降りさせてくれない
息が出来なくてあちこちが壊れて
暫く学校に行けない
「ちょっと熱が下がらないものですから」
痣が薄れるまでは
さっき洗濯室の前を通ったら
ママは壁にもたれてたばこを吸ってた
隣に行って火を分けてもらった
パパはいつだって知ってるけど知らない
ふたり黙ったまま煙い世界で
洗濯機が止まるのをまってた
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今日は必ず布団を干せと
朝のテレビで言っていた
雲の向こうに御日様が
いないわけでもないけれど
テレビとスマホとPCと
情報源にくるまれて
聖徳太子じゃあるまいし
ひとつ切ってもよかろうに
耳にやさしい情報は
誰かが選んで送り込む
それを知ってはいるけれど
耳にやさしい情報だ
座ってるだけで忙しい
ガチョウのように喰わされる
考える暇もないけれど
盗んだ言葉でやり過ごす
好きなものだけ喰ってるよ
バランス取れてるわけがない
立派ななにかを言いたいが
量産された安物だ
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雨雲がのそりとやってくる
友達になれそうだ
ぼくのこのどうしようもなさ
このおなじみのやつ
どうしようもないままで
また瘡蓋を剥がしてる
きみが呉れた子猫は
永遠に噛み癖が治らない
永遠に子猫のままで
ダッジのバンくらい育つ
永遠には生きられない
永遠に噛み癖が治らない
いつも眠くなってしまって
いつもいつも勝てない
今日も急いでいますか
置いてってください
上手いこと許してやってください
何かから少しだけ逃げたい
じつはアンモナイトになって
大理石の壁の中で全てを観ていました
大変勉強になりました
大変勉強になりましたが
それだけの事でした
だれも期待しないで
なにも期待しないで
ちょうど良く距離をとって
ただ眺めていて
飽きたらもう行って
気が向いたらまた来て
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おまえが掘っているそれは
トンネルなのか墓穴なのか
ニンゲンじゃないならカミサマなんだろ
見たとこイヌみたいだけど
今このときも新しい言葉が生まれて
現象に名前を与えている
歪んだバイオリンが頭蓋を満たす
さあ名前を与えてくれ
この現象に名前を与えてくれ
ヒントその壱 甘くて苦い
ヒントその弐 苦くて甘い
目を瞑ってまだ無い景色を眺める
発生する 発芽する 発見する
カミサマじゃないのか
イヌでもないのか
名前が欲しいのか
ソウイッタ ファクターハ
スベテ ヒントニ ナリウル
すべてはすべて
すべてのすべて
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きみは十分に吟味した木の枝を
ぶんと振り回しながら歩いた
焼け落ちた神殿の敷石を叩き
草むらをがさがさ脅しながら歩いた
口笛
おい口笛なのか
旅はまだまだ続くから
景色はゆっくり変わっていくから
目を閉じることもできたのに
「それはスタイルじゃないんだ」
何もかもは思い通りにいかない
不安なら誰のポケットにも入ってる
ヒントさえやれば音もなく育ち
もう一人では畳めなくなる
不安は怖れになり敵意になり
あれもこれも誰かのせいにしてしまう
あまりに大好きだったから
あまりに大好きすぎたから
きみはそれを殺した
ぽきりと折って投げた
耳まで裂けた口を開けて
はらわたが出るまで笑った
それは渦巻く咆哮に変わり細い月が震えた
北の針葉樹林からオオカミが遠吠えで応えた
すべて城壁ができる前の話だよ
精子と卵子が出逢う前の話だよ
僕らの記憶が溶け合わないのは
ぼくらが右手と左手だからだよ
なにを不思議に思う余地があるの
ぼくの時間はぼくのもの
きみの時間はきみのもの
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なんか食べたいね
なんかおいしいもの
ガッツリ系 シズル感 映え イイネ
食べた過ぎて絞れないよ
肉 魚 丼 定食
もう正直なんでもいんだよ
和食 洋食 イタリアン
満足するまで
納得するまで
ステーキ ラーメン スシ バーガー
もう何年も満足してない
腹の中に狗を飼ってる
そいつがどしても満足しない
ナンカタベタイネ
ナンカタベタイネ
もうずっと吐きそう
ナンカタベタイネ
ナンカタベタイネ
おれもう破裂するから
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あの時わたしは
あなたの海馬に触れ
感電してしまった
あの時あなたは
わたしの心臓に触れ
指紋を残してしまった
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クリーニング屋の針金ハンガーで
耳から引き摺り出した掻き出した
からっぽだ軽くなった重力はもう敵じゃない
地べたから3センチ浮いて歩く
昨日より3センチ高みから眺める
心配だなきみは
力づくで忘れようとするから
陶酔を手に入れて噛み砕いて飲み下して
揺れてるだけで酔えるから探さなくていい
正面から流れて来る 光も音も時間も
真っ直ぐに向かってくる望まない何もかも
怖がらないで痛くない思ってたほどには
しかも永くは続かない望んでたほどには
言葉にしようとするから苦しい
空気のまま漂わせておこう
汚れた気がしてるのはまだ生きてるからさ
きみの中に隠れた秘密の子供が
始めなければ終わらないよ
それが不安なんだろう
混ぜ合わせてみれば解かるかも
玉子はもう割ってしまったわけだし
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死んだ豚を焼いて食べると美味しい
本当は死んだんじゃない 殺したの
殺した豚を焼いて食べると美味しい
誰かが代わりに殺してくれた
その人の名を私は知らない
その人も私の名を知らない
私は食べた豚の名前を知らない
豚のお母さんがつけた名前だよ
その人も殺した豚の名前を知らない
その人は豚の番号を知っていたかもしれない
豚のお母さんがつけた名前を剥ぎ取り
引き換えに赤いマジックで横腹に書いた番号
書類と突き合わせ 確認のレ点を打つ瞬間だけ
その人は豚の番号を知っていたかもしれない
豚の番号はその人の網膜から瞬時に脳に伝わり
そして瞬時に霧散した
だから私は豚の名前も番号も知らない
豚のお母さんは今も産んだ子豚たちに名前を付けている
その人は今も豚を殺している
殺された豚を焼いて食べると美味しい
そして私はビーガンにならない
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手の中の小鳥のように鼓動する心臓
ぼくの安心毛布であり自爆ボタンである
意味あり気な活字を唱えて
次第次第に透明になり広告だけが残る
日常の欠片を紡ぐ憧れのお仕事は
ゆっくり しかし確実にぼくをすり潰す
優しい嘘 悲しい嘘 哀れな嘘
それらは等しく嘘でしかないと証言しよう
いちど目が覚めてしまえば
嘘のないものはたいへんな貴重品で
満足と言うあの心持ちを喪って後悔しないでもない
裏返しに丸まった靴下を見る時の目で
立ち尽くし終わりが来るのを待っている
ふいに左耳からモーツァルトが漏れ出し
残り時間のあまりの短さを知る
絡まる五線譜をほどきながら
ぼくはいま泣いていると
漸く認めるのだ
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今もあの家のあのテーブルの
誰も使わない灰皿の中に
砂漠の薔薇がころんと
誰かに貰った土産だと母は
その誰かは誰なのか知らないのだけれど
聞こうとして でも聞かなかった
ちょうど帰ってきた父が
灰皿を見て眉をひそめた
もう誰もいないあの家のあのテーブルの
誰も使わない灰皿の中に
砂漠の薔薇がころんと
異国の歌を歌ってるかもしれない
涸れ果て打ち捨てられたオアシスの歌
誰も聴く人の無いあの家のあのテーブルの
誰も使わない灰皿の中で
煤けた窓越しに同じ太陽
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不確かな明日に向かう ただそうすべきだから
空が燃えている いやな臭いがする
誰が知っている 誰に分かる そっと目を逸らす
進まねばならぬと ただ知っているぼくらは
名前を付けてくれ この行軍に
意味を与えてくれ 無数の墓標に
ゴールを示してくれ バッドエンドでいいから
嘘が嘘であることについて いまさら議論なんて
欲望がぼくらを擦り減らす昨日今日明日
ただ考えてみろよ これは自身の欲望なのか
欲しい欲しいと寄越せと言うその口はまるで
壊れたレコード 草臥れほつれたパペット
家に帰りたい
あの木戸を押して
ストーブで煮える芋の湯気
迎えてくれる声を
もいちど思い出したい
ぼくはぼくを喪うだろう そのことさえも忘れるだろう
そして楽になるだろう ほらみんな同じ顔だ
決まった時間にニュースを見て流行りのコントに笑う
炊き出しに並ぶ旧友の丸まった背中も知らずに
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波の残像がくるぶしを撫でて
昼でも夜でもない隙間
受け取りそこなったボトルメールを
諦めそうになったり
鍵を探していたけれど
もともと開いたままの戸棚があって
いつから空っぽだったのか
最初からなのかも知らないまま
人から人へ伝わるうちに
意味が付け足されていくおとぎ話に
教期待しすぎてないですか
解かりやすい教訓は本当に必要ですか
もう帰ろうと思うのだけれど
動けないままでいるのは
今日と言う日に何らかの意味があるはずと
意味って何かしら 必要な物かしら
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バラの終わったバラ園で
いつものベンチに腰掛ける
キャメラを回す きみに向ける
細い指 細い煙草 細い紫煙の螺旋
「渡り鳥だ」きみは見上げる
「冬が来るね」ぼくは君を見てる
時を知らせる鐘が鳴るそれから
空気を満たす静けさ さわれるほどの
好きなシーンを何度でも
巻き戻し そしてスローで
ぼくの問いにきみはなんて答えたっけ
その時には見えなかった僅かな逡巡を
今は知っている 巻き戻し そしてスローで
ほんの一瞬覗かせた真実 何度も何度も そしてスローで
一瞬で取り戻した完璧な完璧な微笑が
何度も何度も心臓を貫く
巻き戻し そしてスローで
ぼくには眠りが必要だ
いつだってきみはそこに居るし
大事なもの全部そこにある
好きなシーンを何度でも
巻き戻し そしてスローで
繰り返し巻き戻し そしてスローで
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